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津島型町家の住宅モデルプラン提案募集事業報告
最終更新日:2016年3月22日
総評 審査委員長 難波和彦
津島市のコンペ事務局から、今回のコンペのテーマの趣旨を初めて提示された時は少々驚きました。
「歴史ある町家建築の資源を環境や防災など現在の基準に対応されたうえで現代の生活環境を考慮しながらも、積極的な保存を行い、豊かな生活を過ごせる町家・町並みにしていきたい」。
これを読んでまず頭に浮かんだのは、「地方創生」という時代潮流に沿った的確なテーマですが、コンペの課題としてはややハードルが高すぎるのではないかということでした。というのも、新たに津島型の町家モデルを提案するには、その前提条件として、本町筋という古い歴史を持つ町家の現状の街並をつぶさに体験し、さらにその歴史的な経緯を調査した上で、建築的・都市的な視点から街並と町家の潜在的な可能性を精細に読み解かねばならないと考えたからです。これは保存や再生(リノベーションやコンバージョン)に必ずつきまとう難しいハードルです。今回のテーマは、通常のアイデア・コンペのように単一のアイデアを適用するだけではクリアできない、きわめて難解な課題なのです。
このような課題の難しさもあって、今回のコンペの応募数はそれほど多くありませんでした。にもかかわらず、応募案はどれも意欲的で、充実した提案が多かったことは大きな収穫と言わねばなりません。とはいえ、ほとんどの案が上記のようなハードルを乗り越えるために多大なエネルギーを費やし、その結果、新しいコンセプトの提案にまでには至っていないように見えたことも確かです。第二次審査に残った案は、それぞれユニークな提案を行ってはいますが、総じて「ドングリの背比べ」であり、突出した案は見当たらないというのが正直な印象でした。このため審査員の評価も拡散し、審査の最後まで意見が収斂しませんでした。興味深かったのは、第一次審査では審査員全員が高く評価した案が第二次審査では評価が低くなり、第一次審査ではあまり評価されなかった案が第二次審査では注目されるような事態が生じたことです。このような逆転現象が生じたのも、今回の課題が多数の条件によって成立しているために、審査員が提案の細部まで読み切れなかったからだと思われます。保存や再生においては、一方で新しいアイデアによる現状突破が求められますが、他方では現実性を追求すればするほど答は保守的になる傾向が生じます。この点も保存と再生という課題の難しさといえるでしょう。
以上のようなことも起因して、今回は審査委員長と他の審査委員との意見の微妙なくい違いが浮かび上がったように思われます。委員長は先見的な提案性を積極的に評価しようと試みましたが、他の委員は総じてリアリティと機能性を優先しようとしたからです。とはいえ、これらの評価の差異は僅かでしかありません。提案のレベルも、賞の結果ほど大きくはないことを付け加えておきたいと思います。
今回のコンペの結果を、主催者である津島市がどのように解釈するかは今後の課題ですが、どの案も本町の街並の保存と再生にあたって、生産的なアイデアの提案になるはずです。このようにアイデア性と現実性を併せ持つ提案を求めるようなコンペは、現在ではきわめて貴重です。そのようなコンペを企画した津島市に対して、心から敬意を表したいと思います。
難波和彦審査委員長
提案募集の概要
津島は、中世・近世に伊勢と尾張をつなぐ湊町として栄え、自然堤防の上につくられた本町通りを中心に町並みが形成されました。その町並みは、地形に合わせて緩やかに孤を描いており、町家の風情を引き立てるとともに、今なお残る古い町並みは本町筋付近の多くの神社仏閣と合わせ、歴史的な風情も味わえます。
最近では、そうした歴史ある町家も老朽化が進み、世代交代もあいまって空き家になり、中には取り壊されるものもでてきました。
本市では、この町家を地域資源として活かして「歴史・文化ゾーン」のまちづくりを進めています。その中で、歴史ある町家建築の資源を環境や防災など現在の基準に対応されたうえで現代の生活環境を考慮しながらも、積極的な保存を行い、豊かな生活を過ごせる町家・町並みにしていきたいと考えています。
それを実現させるプランを全国から「津島型町家の住宅モデル」として提案募集しました。
作品募集期間(応募作品数)
平成27年6月30日~平成27年10月16日(36作品)
現地説明会日時(参加人数)
平成27年8月1日(12名)
平成27年8月8日(43名)
審査会日時
一次審査会:平成27年10月31日(非公開)
二次審査会・表彰式:平成27年12月5日(津島神社参集所)
審査委員(敬称略順不同)
審査委員長:難波和彦(東京大学名誉教授/放送大学客員教授)
審査委員 :朝岡市郎((公社)愛知県建築士事務所協会会長)
浅野 聡(三重大学大学院工学研究科准教授)
生田京子(名城大学理工学部建築学科准教授)
清水裕之(名古屋大学大学院環境学研究科教授)
日比一昭(津島市長 一級建築士)
難波和彦審査委員長
朝岡市郎審査委員
浅野聡審査委員
生田京子審査委員
清水裕之審査委員
日比一昭審査委員
入選作品及び審査委員講評
最優秀賞:向こう三軒両隣り
優秀賞:町家が紡ぐ津島のまちなみ
優秀賞:町家を縫う小径
佳作:アーケードをもつ町屋
佳作:津島本町筋に溢れる灯り
佳作:津島町家3×6
佳作:代謝する立体格子の風景
佳作:あずまちや
佳作:戸外の通り庭を共有する町屋群
戸外の通り庭を共有する町屋群主旨及び講評(PDF:110KB)
佳作:町屋のなかの小さな町屋
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